illust / text:@raytokimatsu
新宿で打ち合わせがあった。
駅を出て甲州街道を歩けばすぐ着くはずだったが、出口を間違えて郵便局の辺りをぐるぐるし、都庁の横で曲がれず、20分ほど右往左往した。まあ、新宿で迷うのは珍しいことじゃない。僕のホームは渋谷だ。(大嘘)

打ち合わせが終わって、上司と駅に向かって歩いた。
「昔はここに◯◯があって」「よく飲んだものだよ」と、上司が淡々と語る。
僕が「新宿お詳しいんですね」と言うと、
彼は「最初に働いたのがこの辺でね。あのとき貧乏だったなあ」と
苦々しい表情で、しかし逞しさの混った声色で呟いた。
僕は浪人時代のお茶の水を思い出した。予備校に通っていた街だ。
お茶の水駅前の小さな交差点に立つと、あの頃の記憶が頭をよぎる。
– 見慣れた「E判定」の3文字
– サークルや飲み会を楽しむ同期への羨み
– 「もう志望校には受からないな」という確信と絶望、両親への申し訳なさ。
大袈裟にいえば、僕は夜ごと出口を探しあぐねていた。
夜ごと出口を探しあぐねる、と言うのがどう言う状態なのかは僕にもわからない、それっぽいから書いてみた。
要するに、息苦しい毎日だった。
でも今思えば、それも必要な時間だったのかもしれない。
上司が「貧乏だった」と言ったときの表情に、僕は上司の尊敬されたる所以を見た気がした。
誰にだって、振り返って苦笑するしかない季節がある。
その積み重ねが、人を形づくっていくのだと思う。
駅の改札に着いたとき、これまで特別な感情を持たなかった(というか嫌いだった)新宿が、少しだけ身近に感じられた。
\今日の言葉/
しっかり責任を持てよ。男らしくな。ハッタリでもだ!
ー映画「ジーサンズ はじめての強盗」より
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\余談/
「全員玉置浩二に影響受けてるクラスの卒業式」というこちらの動画が大好きだ。卒業生と人生が辛いという方には是非みていただきたい。